早乙女の記述

① 名前:早乙女真、所属:元SE現在は年金生活者、富士通→NTTデータ経営研究所

 

② イタクラさんとの関わり

富士通に大学卒新人で入社し、板倉課長の隣の課に配属された。部の飲み会で、板倉さんのグループが当時の部長(目のぎょろっとした人だった)の真似をして、お猪口を目に当てて踊るのを見て、すごいことをする人がいるなと思ったのが最初の印象。

新人時、コンピュータシステムの開発の仕事について学生時代の経験はほとんど役に立たなかったが、周りを参考に普通には対応できていた(と思っていた)。4年目に配属された広島のプロジェクトが品質や性能の問題を起こし、その助っ人として板倉さんが入ってきた。そこからコンピュータシステム開発のイロハや社会人としての仕事に臨む姿勢など、実に多くのことを学ばせてもらった。思えば、ロジックは組めても性能の基本も知らず、学生の知識でできていると思っていた自分が甘かった。数年後、会社の組織変更で課が数名の編成になり、若輩だが自分が予算係を務め、直接板倉部長(当時)の指導を受けた。ここでは、システム開発の仕事だけでなくプロジェクトの計画や財務的なことも教わった。

結婚する際には、頼み込んで仲人をしていただいた。何にせよ。人生における諸々の師であり、板倉さんと出会わなかったとすれば、自分は全く違う人間になっていたと思う。

 

③ イタクラさんとはどんな人?

短く語るのは、相当に難しい。真面目な人であり、出鱈目な人だ。

原理原則を大事にし、それを言語化して周りに伝えようとする。コンピュータシステム開発の黎明期にあって、この姿勢を基本として多くのことを血の通った知識に昇華させ、部下や周りの人に知らしめて行った。富士通にもNTTや他の関係した組織にも信奉者が多い。

大胆不敵でありながらバンカラであり過ぎず、研究を怠らないが内向きになり過ぎない。ありそうでないバランスを持った人とも思う。話の中で敵やライバルも多かったことを聞かされるが、色々な所属、色々な世代の人に好かれていることも疑いない。今でも富士通OBで板倉さんを囲む会が開催されている。要するに人望がある。

全てのことについてではないが、板倉さんのようでありたい、どうすればなれるのかという問いは自分の中に常にある。仕事を通じてお世話になった人は大勢いるが、尊敬する人のトップはイタクラさんだ。自分が見本とする人物であることは間違いない。

 

④ イタクラさんのすごいと思うところ

人を動かす力(政治力、人間力)と細かく考えて答えを導く力(思考力、分析力)は、2律背反であることが多いと日常的には感じている。イタクラさんはこの両方を高次にバランス良く持っている。ありそうでない事だと思う。政治力が前に出るといけ好かない人物になり易いが、イタクラさんは思考力、分析力が前に出て、政治力(これもかなり強い)が後ろ目に見えるので、嫌味がないと自分としては感じる。

見識にも唸らされる。戦時中に抗戦を唱えた人は評価され、戦後は反戦を唱えた人が評価された。時が変われば評価は反転する。評価に惑わされないことが大事だ。という話をされたことがあり、なるほどと思った記憶が鮮明である。日本語や日本人の特徴についても多くの書物を読んでいて、この辺りの話にも含蓄がある。つまり旺盛な好奇心と探究心がすごいところであり、すごさの源泉でもあると思う。

 

⑤ イタクラさんから影響を受けたこと

自分は頭でっかちである。考えることに重きを置き、考えてから行動することを基本とする。行動から入り失敗する人を多く見ていて、自分はそうはならないと意識して生きてきた。行動から入って、分析し正解に近づいていくということを、モノの見事に実践して見せてくれたのがイタクラさんだった。広島のプロジェクトの性能問題の件もそうであり、予算係としての仕事のやり方でも、実践に根ざした考え方の道程が具体的に示される。これを見せられれば、考え方を変えざるを得ないと感じた。これを機に自分の行動原理は大きく変わったが、全て変われたかと言うとそんなに甘いモノでもなく、考えて行動を渋る自分を、イタクラさんを思い浮かべて行動せねばと鼓舞する場面は今でも多くある。

 

⑥ イタクラさんが周りに及ぼした大きな影響

目の付け所と行動力で周りを動かす力がすごいと思う。例として印象にあるのは、ワープロの活用について、富士通はワープロメーカーでありながら、上長で使いこなしている人は極めて少なかった。イタクラさんは自ら進んでOASYSを使いこなし、その利点を周りに知らしめた。また、情報処理試験の受験についても同様で、率先して当時は最も上位の資格であった特種情報処理試験を受験し合格し、部下に取得を勧めた。当時のイタクラさんの部署では、一斉に多くの人が合格した。自分もその一人である。

 

⑦ イタクラさんの技術(テクニック)ですごいと思うもの

定量化、分析、モデリングなどには、非常に情熱的に取り組む印象がある。象徴的な例として、痔の痛みについてグラフ化し分析したレポートがあった。これと並べるのもいかがとは思うが、性能について分析したレポートなども極めて詳細であるし、そこから推論を展開するところも文書化して周りを巻き込んで対策に繋げるところもすごいなと思う。こうしたアプローチとやり遂げる情熱は、真摯に学ぶべきところと感じる。

推論の展開というのは、センスや頭の見せ所だと思うのだが、イタクラさんの推論には思い切りの良さや大胆さを感じる。行動力が思考力の源泉になっていることをここでも感じる。